追求した先にあったのは、ヴァイオリンの果てしない奥深さ。

 「大学時代はチェロを担当していましたが、当時の福岡には弦楽器の修理ができる職人がいなくてとても不便に感じていました。この想いがヴァイオリン職人を目指すきっかけになったんです」。クライアントの話と楽器の音色に親身になって耳を傾ける石田さんの元には、県外からも依頼が多く寄せられる。修理やメンテナンスの経験で得た知識は、一本に約2カ月の時間が費やされるヴァイオリン制作に生きてくる。「ヴァイオリンの音色を左右するのはニスと木材の質です。ニスは独自に調合し、木材は直接イタリアに買い付けに行って、木目と叩いた時の音で質を判断しています」。海外での見聞や数多くの制作経験を持つ石田さん。過去に得た知識と感覚は色褪せること無く、全てが技術と確かな判断力に反映されている。「修業時代は3~4年くらい経てば名器が作れるんじゃないかって思っていたんです。でも学べば学ぶほど理想とする形から離れていくんですよ。この道に進んで37年経ちましたが、やっとヴァイオリンが分かってきました」。何百年もの歴史を持つヴァイオリンの奥深さは、追求し続ける者しか知ることはできない。石田さんの言葉はヴァイオリンへの愛情と、豊かな好奇心で満ちていた。


アトリエに置かれた数多くの作品。制作は分担せずに最後まで一人で行う。「作業を分担すると作品ではなく製品になってしまうんです」と石田さんは語る。
石田さんが使用するのはイタリア製の板。木目や叩いた時の音、樹脂の量で選別している。
ヴァイオリンの音色はニスによって左右される。独自に調合した30種類ものニスを使い分けている。

Profile

石田泰史(いしだやすし)
西南学院大学を卒業後、東京で6年間の修業を積み1980年に福岡で石田ヴァイオリン工房を開業。弦楽器の修理、メンテナンスで培った知識を生かして制作も行っている。
住/福岡市南区横手南町6-36
問/092-501-5960 http://www.ishida-violin.com

写真=高山弘之・中野岳 文=永溝直子