石という小世界に刻まれるデザインは、ただひとつの自分である証。

 文字を図案化し、石などの印材に篆刻(てんこく)する落款(らっかん)。「子供の頃、雑誌に載っていた手紙にかわいい落款が押してあったのを見て、興味を持ったのがきっかけです」。オーダーメイドで落款制作を行う樫木緑子さんは、目で見て楽しめるような落款のデザインに力を注いでいる。オーダーメイドといっても、デザインに関しては基本“おまかせ”。「何よりも大切にしているのは、クライアントの雰囲気をピタと閉じ込めるようなデザインの追求です。文字に向き合い発想を膨らませて…試行錯誤する時間が楽しいんです」。制作の軸にあるオリジナルデザイン。独自のスタイルに至るまでには、元来の落款様式に対する心の変動があった。「もっと自由に文字を“読める絵”のように表現したくて、落款特有の古典文字に囚われることをやめたんです。その時初めて自分のオリジナルを見つけたと思えました」。古典の枠を越えた時、モダンで独創的な“作品”へと変化を遂げた落款。そんな作品は、石に刻まれる繊細な線で支えられている。「通常下書きに使われるのは筆なんですが、それをペンで石に書き込むので細い線が出るんです」。オーダーを受け始めて15年。刻まれ浮き立つデザインは、ひと彫りごとに研ぎ澄まされ、一層輝きを増していく。


いかに下書きが隅々まで綺麗に書き込めているかで、作品の出来映えは大きく変わる。彫り始めるとあっという間に、2時間ほどで完成。
大理石のように美しい石。巴林石(ぱりんせき)や芙蓉石(ふようせき)など天然石の中から、文字のデザインや雰囲気に合うものを選んでいく。
制作に使用する彫刻刀は2種類。大きく彫る場合には力を使うので、滑らないよう柄には革が巻き付けてある。
ずっと使えるものだから、良いものを届けたい。“おまかせ”に共感する依頼主の信頼に答える為、一彫り一彫り作品作りに余念無く取り組む。

Profile

樫木緑子(かしきのりこ)
オーダーメイドで制作を行う「nori design」落款デザイナー。福岡市南区にある「カフェはじめ」を運営し、店内では落款の展示とオーダーも受け付けている。
住/福岡市南区大楠2-17-3井谷ビル201 問/092-525-1416 http://noridesign.net/

写真=木下綾・柳田奈穂 文=井上あづみ