老舗醤油屋に四代目がもたらした、一からの醤油造り。

 九州独特の甘みある醤油を、代々家族で作り続けるミツル醤油醸造元。四代目の城慶典さんは幼い頃から醤油造りに携わる中で、自社醸造への想いを募らせていった。「市場に出回る醤油の大半は組合が作る生醤油が元になっています。そこに各醸造元が手を加えることで味に個性が出てくるんです。でも僕は大豆や小麦を一から扱って、全行程を自社だけでやり遂げたいと思い続けてきました」。農業大学で醸造を学び、新たな設備のため資金を集め続けた慶典さんは、2010年に念願の自社醸造を始動させた。「大豆と小麦は糸島農協から仕入れたり、後輩の農家に頼んでいます。互いに協力し合うことで、やる気や技術をさらに向上させていきたいです」。自社の醤油だけでなく糸島の農家全体が共に成長できる生産サイクルを慶典さんは大切にしている。「温度や湿度に敏感な食材を扱うため、機械でなく僕らの感覚が頼りになります。手間や時間がかかりますが、試行錯誤しながら醤油の美味しさを追求する今の方が、日々やりがいを感じます」。代々受け継がれるこだわりに慶典さんがもたらした自社醸造という転機。糸島と醤油への揺るぎない想いに満ちた慶典さんの醤油造りは、私たちの食卓により深いコクと旨みをもたらし続ける。


塩水と麹は巨大な桶に入れてかき混ぜる。桶は祖父の代に使用していたものを修復して再利用している。
炒った小麦と蒸した大豆を合わせた所にカビの胞子を撒き、麹室で温度や湿度を管理する。「そうして出来る麹を販売することで、家庭で醤油を手作りする文化も広めていきたい」と慶典さん。
現在は家族を中心とした7人で醤油を造る。醸造所の周囲は小麦と醤油の香ばしく甘い匂いが漂う。
生醤油を元にして作った醤油の貯蔵タンク。祖父の代まで続いていた醤油の伝統的製法を復活させるため、城さんは高校時代から自社醸造を目指していた。

Profile

城慶典(じょうよしのり)
高校生の時に、実家であるミツル醤油醸造元で自家醸造を復活させたいと志す。大学や様々な醸造元で知識を学び、新たな設備のために資金を集め、2009年には糸島へ戻り長年の夢だった自家醸造を実現させる。住/糸島市二丈深江925-2 問/092-325-0026 http://www.mitsuru-shoyu.com/

写真=後藤大樹 文=永溝直子