時間と手間をかけ少しずつ。日本へ持ち帰ったマリ共和国の伝統染色。

 「大学時代のバックパッカーの旅で一番印象に残った国がマリ共和国でした。無文字文化の中で暮らす人々や建物や景色など、見るもの全てがどの国より日本とかけ離れていると感じたんです。その記憶は時を経ても色あせなくて、仕事を辞めた29歳の時に再びマリへ旅に出ようと決心しました」。2度目の訪問で菊池さんが出会ったのは、ボゴランというマリ伝統の染め物。植物の煮汁で生地を染め、黄色味がかったその布に泥で柄を描き、洗いと乾燥の作業を繰り返す。すると植物と泥の成分が化学反応を起こし、柄が鮮やかに発色するのだ。「ボゴランは全ての工程を手作業で行います。機械を使わずに服や靴を自分の感性で染色できるボゴランのアナログさは、僕の性分に合っているんです。使い込んだり洗濯をする中で植物のように枯れてくる色彩も、色の深みとして作品に味を出してくれます」。必要なのは染料となる植物、柄を描くための泥と羽根ペン、そして作業スペースだけ。そのシンプルさと、全てが手作業である古き良きアナログさに魅力を感じるという菊池さん。ボゴランとの出会いをもたらした大学時代の記憶は、一つひとつを目と手先で確かめながら丁寧に進める菊池さんの作品づくりに、今も生き続ける。


使用する泥は三重県の山で採れる、きめの細かい陶芸用もの。染色に使うンガラマという植物は、マリの師匠から年に数回届くもの。
木綿や麻の布だけでなく木材の染色も行い、指輪や壁掛けなどの作品も制作している。
描き、洗い、乾かすという工程は少なくとも2回以上繰り返される。そうすることでンガラマのタンニン酸と鉄分や灰が化学反応を起こし、柄が鮮やかに発色する。
「衣食住を自分でしたい」と語る菊池さん。取材の日も自分で染めたパンツをはいていた。Tシャツや靴など、身につける作品も多い。

Profile

菊池亮(きくちりょう)
29歳の時に仕事を辞め、大学時代に一度訪れたマリ共和国へ旅に出る。現地で出会ったボゴランの師に技術を学び、1年後の2006年に帰国。その後福岡を拠点に制作活動を開始し2010年に工房「泥丹(どろに)」を立ち上げる。
住/福岡市博多区豊1-7-18 http://creation-jolo.jimdo.com/

写真=高山弘之・後藤大樹 文=永溝直子