シルクスクリーン工房=Mesh
シルクスクリーン工房=Mesh
シルクスクリーン工房=Mesh
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シルクスクリーン工房=Mesh

作り手の想いを伝えるシルクスクリーン印刷。

 100年以上の歴史を持つシルクスクリーン印刷。その最大の特徴は、さまざまな素材に印刷が可能なことだ。紙や布はもちろんのこと、ガラスや木、石などにも平面であれば刷ることができる。シルクスクリーンの起源は日本であり、古くから使用されてきた捺染(なせん)型紙(江戸小紋や伊勢型紙、紅型など、型紙を用いての染色)が元になっている。その細かな型紙が破れぬよう、上に絹布を貼付けたことが『ジャパニーズ・ステンシル』として世界中に広まり、ヒントを得た国々でシルクスクリーンの技術は発展していった。印刷、テキスタイルのみならず芸術作品にもその技術は活かされ、例えばアンディ・ウォーホルは写真のネガから版を作成する方法を多用し、かの有名なキャンベルスープ缶やマリリンモンローをモチーフにしたシルクスクリーン作品を多く発表した。
 そんな、さまざまな可能性を持つシルクスクリーン印刷。この技術を多くの人に伝えたいと、日々活動している工房を訪ねた。

クリエイターの駆け込み寺

 博多区上呉服町。昔ながらの商人町に『シルクスクリーン印刷工房 Mesh(メッシュ)』はある。代表を務める平川厚信さんはこの道27年のベテラン。それまで働いていた工房を離れMeshを始めたのは2000年のこと。
 「シルクスクリーンという技術のおもしろさを伝えたくて、月に2度の教室を行なっています。生徒の中にはクリエイターの方もいますよ」。作品の完成度を追求するクリエイターが“駆け込み寺”と呼ぶ平川さんの技術は、ものづくりに携わる人々に絶大な信頼を受けている。


シルクスクリーン工房=Mesh


積み上げてきた技術

 平川さんがシルクスクリーンを始めたのは30歳の時。大学時代の友人に誘われたのを機に、当時働いていた熊本から福岡へやってきた。3人で始めたシルクスクリーン工房は好景気の後押しもあり、瞬く間に成長。人数も増え忙しい日々が続いたが、その始まりは試行錯誤の連続だったという。「シルクスクリーン業界というのは横のつながりが全くないんです。どこも会社独自の技法を持っていて、当然ですが教えてくれない。そうなると自分たちで経験を積むしかありません。失敗を繰り返しながら学んでいきました」。
 そうして一つひとつ積み上げてきた技術と想い。それが後に、平川さんがMeshを立ち上げる原動力となった。

クリエイターと一緒に悩んで方法を探す

 「平川さんがいないと困る」そう語るクリエイターは多い。素材にこだわった生地にシルクスクリーンでプリントし、カバンを制作しているカバン作家『Cotomono』(※)の今村素子さんもその一人。「他の工房なら断られるような細かい注文にも平川さんは応えてくれるんです。一緒に悩みながら、どうすればイメージ通りに刷れるか試行錯誤してくれて。こんな工房は他にありません」。それに対し平川さんは、「楽しさ半分、面倒くささ半分です」と笑う。
 「出来ないと言ってしまうのは簡単ですよね。だけど断っていたら自分自身にも進歩がないと思うんです。大変な分だけ、うまくいった時はうれしいですよ」。
 妥協せず一緒に方法を探すこと。そんなシンプルなことが、ものづくりに携わる人たちをバックアップする。そしてそんな平川さんの技術は口コミで広がり、新たなつながりを生んでいく。


シルクスクリーン工房=Mesh

インキを混ぜ合わせイメージの色を作っていく。


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シルクスクリーンを刷るためのスキージ。硬さにより色が違い、素材により使い分ける。
シルクスクリーン工房=Mesh
一人ひとりのイメージに合わせて調合したインキが所狭しと並ぶ。
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効率よくプリントするために平川さんが作った装置。木枠に版を固定し刷る際のズレを防ぐ。
シルクスクリーン工房=Mesh
工房まるの故 加勢剛さんが描いたサグラダファミリア。細やかな線をシルクプリントで再現した。

“社会の役に立ちたい”という想い

 知的障がい者通所授産施設『JOY倶楽部』。その中で『アトリエブラヴォ』は、一人ひとりの感性を生かしたアート作品を制作しているグループだ。独特な世界観を持つ彼らのイラストをモチーフにしたTシャツは人気が高い。
 「制作の手伝いを始めたきっかけは偶然です。当時教室に通っていた方がMeshで作ったTシャツを着ていた時に、アトリエブラヴォの方が声をかけたそうです。ちょうど彼らもTシャツを作り始めた時で、なかなか思うような色に仕上がらないと悩んでいたところでした」。
 そんな些細なきっかけから始まり、今ではアトリエブラヴォの製品に平川さんの技術は必要不可欠だ。「Tシャツを作る前には数万円だった彼らの売り上げが、制作を始めて何倍にもなったそうです。こちらが安く仕事を受ければその分彼らの利益も大きくなるので、半分ボランティアのような気持ちでお手伝いしています」。
 50歳を過ぎ、社会の役に立ちたいと思うようになったと語る平川さん。そんな活動も今では5~6施設にのぼり、工房の壁には彼らの活躍を紹介した記事が一つひとつ丁寧に飾られている。まるで我が子の成長を見守るような、平川さんの温かい気持ちが垣間見えた。


シルクスクリーン工房=Mesh


身近な技術のおもしろさを伝えたい

 「シルクスクリーンにしか出来ないことを伝えたいんです」。そう語る平川さんが教室を始めたのは、自分の持つ技術を教えることでシルクスクリーンを残していきたいという想いから。
 「興味を持ってくれる人たちに自分の技術を惜しみなく教えていきたいんです。そうして生徒が身に付けた技術を周りに教えていき、広がりつながり続ける。それが理想ですね」。
 つい先日は、子供の描いた絵をTシャツにしたいと言う母親が訪ねてきたそうだ。「一枚のTシャツに親子の想いが詰まっていました。身近にあって温もりのある技術なんだと、多くの人に感じてほしいです」。小さな温もりは伝わり、つながりがり、シルクスクリーン印刷は続いていく。


シルクスクリーン工房=Mesh
フィルム作成/デザイン画を透明フィルムにコピーする。黒色の濃さにより版の精密さが変わり、仕上がりに影響する。
シルクスクリーン工房=Mesh
焼き付け/乳剤を塗った版とフィルムを圧着。4分ほど紫外線をあて露光させることで、版にフィルムが焼き付けられる。
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水洗い(抜け)/乳剤を洗い流し、水圧をかけて生地目を抜く。露光した部分が抜けることで印刷時にインキが抜ける。
シルクスクリーン工房=Mesh
刷り/乾燥させた版を刷る物の上に固定し、調合したインキを置く。一定の圧力でスキージを引きインキを刷る。
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乾燥後 仕上がり/乾燥後、インキが定着したら完成。一定の時間と温度で加熱することでインキの状態が安定する。
シルクスクリーン工房=Mesh
たずさわった作品の一つひとつが、試行錯誤を重ねて完成した大切なもの。“刷り師”平川さんは今日も作業に励んでいる。

Profile

シルクスクリーン工房=Mesh

シルクスクリーン工房 Mesh 平川厚信(ひらかわあつのぶ)
2000年に設立、現在はTシャツやバッグへのプリントを主に行なう。シルクスクリーンの技法を学ぶ教室も行なっており、生徒の中にはクリエイターの姿も。
住/福岡市博多区上呉服町2-24垣波ビル2F 問/092-262-5531
スクリーン印刷が体験できるエフ・ディデザイン塾とのコラボワークショップもご覧下さい。

写真=石川博己 文=柳田奈穂