屋久島の暮らし=団らんな食卓
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島いとこの食卓。

 前号から引き続きF_d booksより発売中の『屋久島移住ブック』の取材で出会った、屋久島の魅力をご紹介します。今回の特集は屋久島の食卓。島の北側、東シナ海に沈む夕日が美しい吉田集落を訪れました。
 周囲約132キロ、24の集落から成り立っている屋久島。島の中心には1800m以上の山々がそびえ立ち、県道もなく交通網が発達していなかった昔は、反対側の集落へ行くのは泊まりがけでした。そこで必要なのが長い旅路のあいだ、衣食住を提供してくれる助け合う仲間。血のつながりはないけれど、親戚のようにお互いを気遣い思いやる関係のことを『島いとこ』と島の人たちは呼びます。一度島いとこになるとその縁は続いていき、子供の代まで引き継がれるそう。集落によって穫れるものが違う屋久島では、漁業が盛んな地域からは魚を、農業が盛んな地域からは作物を届け合い交流を深めていました。

 島いとこという風習からも分かるように、屋久島の人たちは結束が固く、集落はひとつの家族のよう。それは都会のように便利ではない分、人と人との繋がりが強いことを意味しています。
 「ご近所付き合いを大切にしてなかったら、お酒を飲んでる時に子供がお腹が痛いって言い出したらどうする?自分は運転できないでしょう。そんな時には近所の人に運転してもらわんといかん。付き合いしてなかったらいざと言う時に助けてもらえないでしょう」と、屋久島で生まれ育った山岳ガイドさんは話してくれました。 
 今回取材した吉田集落は、急峻な地形に112世帯が軒を寄せ合う、漁業が盛んな小さな集落です。年長者は次の世代を担う子供たちを大切にし、若者は今まで頑張ってきた年長者を敬う。そして外から来た人たちにはテーブルいっぱいの料理を並べてもてなすという、“もてなしの心”を大切にしています。

 食卓の取材を快く受けてくださった田中さんは、私たちが以前発行していた季刊誌『F_d(エフ・ディ)』の取材で屋久島に訪れたときにも、同じように取材を快諾してくれました。当時取材先を探していたとき、福岡で知り合った方が屋久島出身の方で、「ぜひうちの実家に」とお話ししてくれたのがご縁。今回は長野から屋久島に嫁いだお嫁さんのご両親がはるばる屋久島に訪ねてきたこと、そして3人のおばあちゃんたちの誕生日会も同時にひらかれ、とてもにぎやかな食卓でした。


屋久島の暮らし=団らんな食卓


シンプルで贅沢な毎日の食事。

 屋久島のおめでたい席に欠かせないのが『待ち迎け』。親戚一同が集まり、島から出た家族を迎える際に作る料理のことです。テーブルには所狭しと料理が並び、乗り切れないほど。魚も貝も野菜も果物も、ほとんどが地のものです。
 魚は釣ったり銛でついたり、地元の漁師さんから分けてもらうことも。吉田集落は素潜りを得意とする集落で、子供の頃からの風習だと言います。「家のしきたりに組み込まれてるんだよ」と話してくれました。豊富な海の幸を一年を通して食べることができるので、田中さんのお宅ではスーパーで買い物をすることがほとんどないそうです。野菜も畑で育て、自分が育てないものでも、親戚やご近所からいただいたり。収穫したらおすそ分けは当たり前で、作るときからご近所さんの分も考えているという、“分け合う文化”。島内自給率が高く、どれも美味しい食生活に、思わず「うらやましい!」と声を上げると、待ち迎けを作ってくれたお母さんが「今日はお祝いの席だから特別、いつもは質素なのよ」とにこにこ笑って応えてくれました。
 ずらりと並んだ料理の中で、屋久島の郷土料理をいくつかご紹介。まずは『あくまき』というお菓子です。名前のとおり木灰のアク汁でもち米を一晩漬け込んだ後、孟宗竹の皮に包み、2時間ほど煮込んでつくるこのお菓子。甘そうな見た目からは想像できない、あっさりとした不思議な味のお餅です。作り方も一緒で味も似ている『つのまき』はダチクの葉で包んだもの。『かからん団子』は2月中旬頃から採れる柔らかいヨモギの葉を入れて作ったお餅に、黒砂糖で甘みを加え、サツマサンキライの葉っぱで包んだものです。屋久島のお店でよく売られているので、訪れた際にはぜひご賞味を。ほのかでやさしい自然の甘みです。
 屋久島名物といえば、有名なのは『首折れサバ』の燻製、サバ節。そのまま食べてもおいしいのですが、うどんなどの麺類のダシにしてもおいしいとのこと。お醤油や味噌との相性が良く、おでんや煮物のダシとして関東地方でもよく使われるそうです。


屋久島の暮らし=団らんな食卓

今回の主役は一番右のおばあちゃん。みんなからの誕生日プレゼントは、とても可愛らしいパジャマでした。


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今回もお世話になった吉田集落の田中さん。
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サバ、エビ、サーモン、しいたけなどを丸くラッピングしたお寿司。
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お祝いの席には必ず登場するお菓子『あくまき』。見かけよりもあっさりした味わい。
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屋久島の地のものばかり。手前はとびうおのすり身を使ったさつまあげ、中央は『亀の手』と呼ばれる貝。一匹まるごとのカニは、身がびっしりと詰まっている。
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あくまき同様、屋久島を代表するお菓子『つのまき』と『かからん団子』。島のお土産売り場でも売っている。かからん団子は甘い。
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とれたての新鮮なお刺身。屋久島のお刺身は味噌で食べてもおいしい。

おもてなし上手な人たち。

 屋久島は海のものも、山のものも穫れる豊かな島。大潮の潮が引いた磯で、貝やタコ、カニなどを穫る『いそもん採り』は島独特の習慣。本来は漁業に従事している人しか海のものを穫れないのですが、大潮のいそもん採りの日は特別。みんな一緒になって海のものを穫れるこの日は、移住してきた人たちにとっても、待ち遠しい日なのです。
 待ち迎け料理の中にも磯で穫れた『ジンガサ』と呼ばれる傘のような形の貝や、アワビのような食感の『トコブシ』、『ニシンコ』(屋久島では穫るのが難しいことからカタキンコと呼ばれる。)などがお皿を彩っていました。味付けはどれもお醤油を少々、磯の香りが引き立ち、歯ごたえがあってとても美味しかったです。
 また、屋久島では刺身や肉にお醤油ではなく、味噌をつけて食べることがあります。「たっぷりつけて食べてみなさい」とすすめられ、おそるおそる食べてみるとこれが美味しい!刺身も肉も新鮮で臭みがないから出来るこの食べ方、あんまり美味しいので「味噌も自家製ですか?」と聞くと、「普通にスーパーに並んでいる味噌」とのこと。素材が良いと、すべて特別に感じられるみたいです。


屋久島の暮らし=団らんな食卓


 あっという間にお腹ははち切れんばかり。「もう食べれない」と言いながらも、思わず、あれもこれもと箸を伸ばしてしまいます。それに加えて「これも美味しいよ、食べてごらん」と、次々にまわってくる珍しい料理。集落に遊びにきた子供が「口が二つ欲しい!」と言ったのがよく分かります。
 食べさせ上手は“おもてなし上手”。遠慮なく食べる私たちをにこにこと、とっても嬉しそうに見てくれていたのが印象的でした。 
おいしいものを一緒に、会話しながら笑顔で食べると、距離はぐっと近づきます。ただ食べるだけでなく、みんなで一緒に食べるというコミュニケーションは大切な人間の食事のあり方。気持ちまで満腹になった私たちは「また会うときまで島いとこでいたい」、そう強く思いながら田中さんの食卓を後にしました。


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女性陣の手慣れた手つきでどお寿司がんどんできていく。
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屋久島名物首折れサバの『サバ節』。味噌や塩味だけでさっぱりと味つけされたらっきょうと一緒に食べるとおいしい。
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『ジンガサ』の食感はコリコリ。数個でもお店ではいい値段になるおいしい貝。
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誕生日などお祝い事はこうしてみんなが集まって祝う。遠方からのお客さんを迎える時にも開かれる。
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この日釣られた魚。一匹でも家庭のおかずには十分すぎる大きさ。
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吉田集落の眼前に広がる海。人々においしい恵みをもたらす豊かな漁場。

今回訪れた集落|吉田(よしだ)集落

 屋久島には24の集落があり、今回取材させていただいた田中さん宅は屋久島の北西部に位置する吉田集落。NHK連続テレビ小説「まんてん」の舞台となった集落で、かつては半農半漁の美しい棚田があり、急峻な地形を利用して家々が軒を寄せ合う屋久島の中でも趣のある集落です。壇ノ浦で敗れた平家が屋久島まで逃れてきて、平家の落人はここを最初の定住の地としたと伝えられ、屋久島の中でも古地図に載る由緒ある集落です。
 屋久島ではどの集落でも海を望むことができますが、ここ吉田では美しい夕景を見ることができ、屋久島に訪れた旅行者が車を停めて沈みゆく夕景を眺めている光景をよく見かけます。


屋久島の暮らし=団らんな食卓


写真=石川博己 文=柳田奈穂