ちくごの手仕事を訪ねて
ちくごの手仕事を訪ねて=翔工房
ちくごの手仕事を訪ねて
ちくごの手仕事を訪ねて
ちくごの手仕事を訪ねて

豊かに生きる。楽しく生きる。
人間らしさを生み出す、ものづくりの原点。

翔工房/田篭みつえさん
木工詩人/國武秀一さん

 現在発刊中「ちくごの手仕事」。筑後地方の歴史あるものづくりから、歴史を受け継いだ新たなものづくりまでを紹介した書籍です。
 およそ20の工房・アーティストさまにご協力いただき完成しました。その中から今回は「染め・織り・紡ぐ」を一貫して手作業で行う小郡市の翔工房・田篭みつえさん、そして木そのものを活かし、木と会話するように作品を制作する木工詩人・國武秀一さんをご紹介します。


ちくごの手仕事を訪ねて=翔工房


妥協せずに教えたい、培ってきた技術

 福岡県小郡市の田園風景にたたずむ工房、「翔工房」。主宰である田篭みつえさんは作品制作を行いながら、週3回の織物教室を行っている。
「若い人たちに、ものを作る楽しみを伝えたいです。今の世の中を生きていくというのは大変なことでしょう?一所懸命生きていれば、疲れることも沢山あると思います。そんな日々の中で織物を学ぶことが、“こんな楽しみもある”という救いにつながれば良いなと思っています」
 人間に必要な衣・食・住のひとつ、衣を担う布。綿から糸を紡ぎ、経糸と緯糸を交差させていくことで、自分自身の手が「生きるために必要なもの」を生み出す力があることを知る。そんなシンプルな喜びを、田篭さんは丁寧に伝えようとしている。

ただひたすらに制作してきた時間

「デザイン学校を卒業後、進路に悩んでいた時に出会ったのがテキスタイルでした。織りで作られた作品を見て、触れてみたい、糸でも絵が描けるんだと感動したのがきっかけです」
 “一から十まで自分の手で出来て、形に残るものを作りたい”そんな想いを抱いてテキスタイルの学校へ入学した田篭さんは、日ごとに織りの世界へと魅了されていった。
好きな色を作り出す“染め”、糸を生み出す“紡ぎ”。一日中糸を紡いでも、出来るのはマフラー1本分ほどの量だという。
「私が学んでいた頃、時代は好景気のまっただ中。まわりの人たちは遊ぶことに夢中でした。羨ましくなかったと言えば嘘になりますが、それでも私は織り続けることを選んだんです」
 その後故郷である福岡に戻り、結婚、そして出産。子育てに追われながらも田篭さんは機を織り続けた。
「私にとって織りは人生そのもの。途中で止めてしまうということは、それまでの試行錯誤さえも否定することになります。必死でした」
 1985年には「ギャラリーおいし」にて初の個展を開き、翌年には翔工房を開設。夢中で駆け抜けてきた中で、田篭さんの中に「この技術を伝承したい」という想いが生まれた。


ちくごの手仕事を訪ねて=翔工房


原点に戻る機会となった、紡ぎごまとの出会い

 そこで始めたのが織り物教室、そして「紡ぎごま」を使ったワークショップ。
「遠方からのお客様が、カバンから取り出した紡ぎごま。それがワークショップを始めたきっかけです。新幹線の中で、ひざの上でこまを回し糸を紡いできたという話を聞いてはっとしました。立派な道具がなくても糸は紡げるし、紡いだ時間の分、形として残ってくれる。それはまさに、ものづくりの原点だと感じました」
 およそ20cmほどの紡ぎごま。くるくるとこまを回すと、綿は糸へと姿を変えていく。
「人は手を動かさなければ生きていけません。ものを作って生きていくしかないんです。工夫し、試行錯誤しながら。私の人生で教えられるのは、織りを通してものを作っていくことだけです」
 糸を紡ぐ、布を織る。そこには田篭さんの人生そのものが織り込まれているのだ。


ちくごの手仕事を訪ねて=翔工房
週3回、水・木・土曜日に行なわれる織物教室。カリキュラムは決まっておらず、まずは好きなものを織ることからはじめ、ものづくりを楽しみながら技術を身につけていく。
ちくごの手仕事を訪ねて=翔工房
天然染料・化学染料にはこだわらず、イメージする色に染め上げていく。写真はコチニールで染めたもの。
ちくごの手仕事を訪ねて=翔工房
指先からするすると糸が伸びる様子は魔法のよう。糸の細さや風合いに一つとして同じものはなく、紡ぎ手の個性が糸になる。
ちくごの手仕事を訪ねて=翔工房
4月29日にエフ・ディ主催で行なった「人の手から生まれるものづくり」ワークショップの様子。重さや材質にこだわった翔工房特製の紡ぎごまで糸を紡いでいく。

Profile

ちくごの手仕事を訪ねて=翔工房

田篭みつえ(たごもりみつえ)
1954年、福岡県筑紫野市生まれ。1986年小郡市に工房を設立し、1階はギャラリー、2階では織物工房・織物教室を行っている。2011年にはSHOテキスタイル研究所をスタート、研究生制度を開始。より高いレベルの指導に取り組み、作家・指導者の育成に尽力している。
住/小郡市山隈113-2 問/0942-72-8890

町家にひびく、木工詩人のうた

 八女市本町の白壁通り。町家が立ち並び、懐かしさを感じさせる場所だ。作家が多いことでも知られるこの町で、一軒の町家からコンコンという木を打つ音が聞こえてくる。「木工詩人」國武秀一さんの工房兼自宅である。 
 決して完璧な形ではない、どこかいびつな木のカトラリーや器。削り後のでこぼことした感触が優しく手に馴染む。


ちくごの手仕事を訪ねて=國武さん


自然のままにものを作る

 元々サラリーマンだった國武さんは、29歳の時に会社を辞めて家具の制作も手がける大工の元に転職した。技術を身につけ2年後には独立し、その後八女の町並みに魅かれ、工房を構えた。
 その過程で出会った作家・小野セツロー氏のものづくりは、今でも國武さんの制作活動の指針となっている。野の花のスケッチ、木の枝を削って作るかんざし、匙。自然の声に耳を傾けて作られた作品一つひとつは、素朴であたたかい。
「それからはよりシンプルに、自然のままに制作するようになりました。木を割る途中で木片が短くなれば短いおさじが出来ますし、制作途中で出てきた木の節や穴はそのまま作品の味になります」
 木の個性である木目や節目、成長の証である繊維の流れ。木それぞれの個性と向き合い、作品を作る。ひとつとして同じものがない木と同様、そこから生まれる作品のすべてが、ただひとつの個性を持っている。そこには命が宿っているようなぬくもりがあるのだ。
 黙々と木を削る國武さんの、夢中になって遊ぶ子どものような真摯さと集中力。木と向き合い自分と向き合い生まれる作品。
「決めすぎない、自由なものづくりが良いですね」
そこにはゆっくりと、しかし確かに自分の道を進む作家自身の、朴訥とした魅力が詰まっている。


ちくごの手仕事を訪ねて=國武さん

ナタやノミ、小刀など基本的な道具のみで作業を進めていく。


ちくごの手仕事を訪ねて=國武さん
さまざまな木材が並ぶ。形を変えて命を吹き込まれる時を、静かに待っている。
ちくごの手仕事を訪ねて=國武さん
制作過程では手を止め、素材の持ち味を生かした形をじっくりと考える。
ちくごの手仕事を訪ねて=國武さん
木そのものを彫リ出した器。「原木からのものづくりをしていきたい」と語る。
ちくごの手仕事を訪ねて=國武さん
一つひとつ異なる形のカトラリー。自分の手にしっくりと馴染むものを探す楽しみがある。

Profile

ちくごの手仕事を訪ねて=國武さん

國武秀一(くにたけしゅういち)
1976年生まれ。家具制作を経て、木を素材にお盆や器、カトラリーを制作。クラフトの店「梅屋」や器と暮らしのセレクトショップ「テカラ」にも作品が並び、木そのものを生かした素朴な作が支持されている。第1土・日曜日のみ、電話予約にて工房見学も可能。
住/八女市本町263 問/090-7466-1109

写真=石川博己 文=柳田奈穂